税務関係

収益の帰属 大阪高裁令和4年7月20日判決

1.判示事項

・各土地の駐車場の収益が借主(子)の口座に振り込まれていたとしても、貸主(親)が所有権者として享受すべき収益を子に自ら無償で処分している結果であると評価できるのであって、その収益を支配していたのは貸主というべきであるから、各駐車場の収益については、借主は単なる名義人であって、その収益を享受せず、貸主がその収益を享受する場合に当たるというべきであるとされた事例。


2.事案の概要

・X(原告・被控訴人)は多数の不動産を所有し賃料収入等を得ていた。
・Xは、土地、合計約3,000㎡を駐車場として造成し、A(長男・長女)と使用貸借契約を結んだ。
・Aは、管理会社を通じて駐車場を第三者に賃貸し、駐車場収入を得ていた。
・Y税務署長(被告・控訴人)は、駐車場の収入がXに帰属するものとして、更生処分及び過小申告加算税の賦課決定処分をおこなった。

3.争点

・駐車場の収入は、親に帰属するか、子に帰属するか。


4.判旨

・使用貸借契約の成否

使用貸借契約は、各贈与契約と同時に締結され、同契約書においては、Aが本件各舗装部分を含む贈与物件上で駐車場賃貸事業を営むとされていた。
それらの契約を締結した当事者の意思は、AがXから贈与された各土地に敷設された舗装部分等を各土地上に適法に保有する目的でXから各土地を使用貸借することを訳したものというべきである。

・所得税法12条(実質所得者課税の原則)について

所得税法12条は、租税負担の公平を図るため、資産から生ずる収益の帰属について、名義又は形式とその実質が異なる場合には、当該資産の名義又は形式にかかわらず、当該資産の真実の所有者に帰属させようとした趣旨と解される。
そして、所得税基本通達12-1が「所得税法12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきである。」と規定しているのもこれと同じ趣旨と解され、合理的なものと解すべきである。

・本件へのあてはめ

不動産所得である各土地の駐車場収入は、各土地の使用の対価として受けるべき金銭という法定果実であり(民法88条2項)、駐車場賃貸事業を営む者の役務提供の対価ではないから、所有権者がその果実収取権を第三者に付与しない限り、元来所有権者に帰属すべきものである。
そして、本件でAが本件各土地の法定果実を収取できる根拠は使用借権(民法593条)であるが、使用借主は、その無償性から、本来使用貸主の承諾を得ない限り、法定果実収取権を有しない(同法594条2項)。
本件においては、既に各土地の所有権に基づき駐車場賃貸事業を営んで賃料収入を取得していたXが、子であるAに本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾して、その事業をAに承継させたというのであるから、本件各取引は、Xが本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属をAに移転させたものと評価できる。


5.参考

実質所得者課税の原則

所得税法12条

・資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。


【参考資料】

裁判所HP

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