一時所得と雑所得の区分 最高裁平成27年3月10日判決(外れ馬券訴訟)

1.判示事項

・競馬の当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとされた事例。

・競馬の外れ馬券の購入代金について、雑所得である当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができるとされた事例。

 

2.判例要旨

 馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定等に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に網羅的な購入をして、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げるなどしていた本件事実関係(判文参照)の下では、払戻金は所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たる。

  外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金という費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するなどの本件事実関係(判文参照)の下では、外れ馬券の購入代金は、雑所得である当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができる。

 

3.事案の概要

・本件は刑事事件である。

・X(被告人)は、馬券を自動で購入できるソフトを使用して、長期間にわたり網羅的に馬券を購入し、当たり馬券の払戻金を得ることによって、多額の利益を上げていた。

・Xは、馬券を自動的に購入するソフトを使用して、独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して、長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げていた。

・Xは、本件馬券の払戻金は雑所得であり、外れ馬券の購入金額も控除すべきで、雑所得を約1億4,000万円、納付すべき所得税額は約5,000万円と主張した。

・Y(検察官)は、当たり馬券の払戻金は一時所得に当たるとし、収入を得るために支出した金額は当たり馬券の購入費に限られるとして、総所得金額を約14億6,000万円、納付すべき所得税額を約5億7,000万円と主張した。

 

4.争点

争点①

・当たり馬券の払戻金による利益は、一時所得に該当するか、雑所得に該当するか。

争点②

・当たり馬券が雑所得に該当するとして、外れ馬券の購入代金は必要経費として控除することができるか。

 

5.判旨

争点① 払戻金の所得区分について

 所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。

 被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して 独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの本件事実関係の下では、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である。

争点② 本件外れ馬券の購入代金の必要経費該当性について

 雑所得については、所得税法37条1項の必要経費に当たる費用は同法35条2項2号により収入金額から控除される。本件においては、外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するのであるから、当たり馬券の購入代金の費用だけでなく、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するということができ、本件外れ馬券の購入代金は同法37条1項の必要経費に当たると解するのが相当である。

 外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金という費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するなどの本件事実関係の下では、外れ馬券の購入代金について当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができるとした原判断は正当である。

 

【参考資料】

刑集69巻2号434頁