最高裁平成13年7月13日判決(りんご生産組合事件)

1.判示事項

・民法上の組合の組合員が組合の事業に係る作業に従事して支払を受けた収入に係る所得が、給与所得に該当するとされた事例。

2.判例要旨

・りんご生産等の事業を営むことを目的とする民法上の組合の組合員が、りんご生産作業の専従者として同作業に従事して労務費名目で金員の支払を受けた場合において、上記金員は作業時間を基礎として日給制でその金額が決定され、原則として毎月所定の給料日に現金を手渡す方法で支払われ、専従者は同作業の管理者の指示に従って作業に従事したなど判示の事実関係の下においては、上記金員に係る収入をもって労務出資をした組合員に対する組合の利益の分配であるとみるのは困難であり、当該収入に係る所得は給与所得に該当する。

3.事案の概要

・X(原告・被控訴人・上告人)は、りんご生産等の事業を営むことを目的として設立された民法上の組合の組合員である。
・本件組合は、昭和51年2月26日、土地所有者23名がその土地を出資して設立し、各組合員は、出資に係る土地の面積に応じて出資口数を有するとともに、組合経費を拠出していた。
・Xは、専従者として本件組合のりんご生産作業に従事し、本件組合から労務費名目で支払を受けた金員について、これを給与所得に係る収入であるとして所得税の申告をした。
・Y税務署長(被告・控訴人・被上告人)は、これを事業所得に係る収入であるとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、Xが本件各処分の取消しを求めた。
・第1審は、本件収入に係る所得は給与所得に該当するから、これが事業所得に該当することを理由としてされた本件各処分は違法であるとしたが、原審は、本件収入に係る所得は事業所得に該当するとして、Xの請求を棄却すべきものとしたため、Xが上告した。

4.争点

 民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払を受けた場合、給与所得に該当するのか、それとも事業所得に該当するのか。

5.判旨 上告棄却

(1)事業所得と給与所得いずれに該当するかの判断基準

 民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払を受けた場合、当該支払が組合の事業から生じた利益の分配に該当するのか、所得税法28条1項の給与所得に係る給与等の支払に該当するのかは、当該支払の原因となった法律関係についての組合及び組合員の意思ないし認識、当該労務の提供や支払の具体的態様等を考察して客観的、実質的に判断すべきものであって、組合員に対する金員の支払であるからといって当該支払が当然に利益の分配に該当することになるものではない。また、当該支払に係る組合員の収入が給与等に該当するとすることが直ちに組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになるものでもない。

(2)本件へのあてはめ

 本件組合から上告人ら専従者に支払われた労務費は、雇用関係にあることが明らかな一般作業員に対する労務費と同じく、作業時間を基礎として日給制でその金額が決定されており、一般作業員との日給の額の差も作業量、熟練度の違い等を考慮したものであり、その支払の方法も、一般作業員に対するのと同じく、原則として毎月所定の給料日に現金を手渡す方法が採られていたというのである。他方で、組合員に対する出資口数に応じた現金配当は平成3年度に一度行われたことがあるにすぎない。これらのことからすれば、本件組合及びその組合員は、専従者に対する上記労務費の支払を雇用関係に基づくものと認識していたことがうかがわれ、専従者に対する労務費は、本件組合の利益の有無ないしその多寡とは無関係に決定され、支払われていたとみるのが相当である。また、上告人ら専従者は、一般作業員と同じく、管理者の作業指示に従って作業に従事し、作業時間がタイムカードによって記録され、その作業内容も一般作業員と基本的に異なるところはなく、違いがあるとしてもそれは熟練度等の差によるものであったというのであるから、上告人ら専従者は、一般作業員と同じ立場で、本件組合の管理者の指揮命令に服して労務を提供していたとみることができる。さらに、本件組合の目的であるりんご生産事業について、設立当初は各組合員がその出資口数に応じて出役する責任出役義務制が採られていたのが、雇用労力を用いる方が合理的であるとの認識に基づき、管理者、専従者及び一般作業員が生産作業を行う形態に改められた経緯等にもかんがみると、責任出役義務制が廃止された後は、組合員である専従者の労務の提供も、一般作業員のそれと同様のものと扱われたと評価することができる。

(2)結論

 上告人ら専従者が一般作業員とは異なり組合員の中から本件組合の総会において選任され、りんご生産作業においては管理者と一般作業員との間にあって管理者を補助する立場にあったことや、本件組合の設立当初においては責任出役義務制が採られていたことなどを考慮しても、上告人が本件組合から労務費として支払を受けた本件収入をもって労務出資をした組合員に対する組合の利益の分配であるとみるのは困難というほかなく、本件収入に係る所得は給与所得に該当すると解するのが相当である

【参考資料】

最高裁判所裁判集民事202号673頁