南日本高圧コンクリート事件 福岡高裁昭和55年9月29日判決

1. 判示事項

・法人税法132条の「法人税の負担を不当に減少させる結果になる」と認められるか否かは、専ら経済的実質的見地において、法人の行為、計算が経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきものであるとして、関係会社に対する低額譲渡は、法人税法132条の対象となるとした事例。

2.事案の概要

・X社(原告・被控訴人)は、法人税法上の同族会社である。
・訴外A社及び訴外B社は、X社の関係会社である。
・X社は、昭和40年9月~41年8日期までの事業年度について確定申告をした。
・Y税務署長(被告・控訴人)は、更正および過少申告加算税の賦課決定処分をおこなった。
・更正理由(一部省略)
➀X社が、A社に対する商品Pの売上の中に、製造原価以下の金額で販売されたものがあるとして、法人税法132条を適用し、Xの申告にかかる売上額とYの認定した売上額との差額を本件事業年度の売上計上漏れと認定。
➁X社が、A社に対する上記差額と同額の寄附金計上漏れを認定。

3.争点

・関係会社に対する低額譲渡は、法人税法132条の対象となるか。

4.判旨

・法人税法132条の意義

 法人税法132条は、法人の選択した行為、計算が実在し私法上有効であっても、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを否認し、通常あるべき行為、計算を想定し、これに従い税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、法人税法132条の「法人税の負担を不当に減少させる結果になる」と認められるか否かは、専ら経済的実質的見地において、法人の行為、計算が経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきものである

 これを法人の製品販売の行為、計算についてみれば、その販売価額が通常の販売価額(時価)に比し異常に低価であって、経済的取引としては不合理、不自然と認められるかどうかがその判断基準とされるべきである

・本件へのあてはめ

 商品Pの通常の販売価額は、それぞれ少なくとも、単価2万8,600円の商品と2万4,500円の商品である。

 しかるに、商品Pの販売価額は通常の販売価額の56ないし57%であつて、しかも製造原価をも下廻る異常な低価であることは前叙のとおりである。してみれば他に特段の事情の認められない本件においては、異常低価販売は経済的取引としてまことに不合理、不自然なものであるというの外ない

 以上のとおりであるから、X社公表売上計上高欄記載の売上金額とY認定売上高欄記載の売上金額との差額合計2,029万4,370円をX社のA社に対する当期の低価譲渡による売上計上洩れと認定したのは相当である

 そして、低価譲渡による売上計上洩れが認められる場合において、同金額がAに対する寄付金と認定さるべきこと、及びその際における寄付金の損金不算入額が1,924万1,660円となることは当事者間に争いがない。

・課税客体について

 法人税法132条1項について、法人税の負担を不当に減少させるかどうかは、X社とA社のような系列会社間の行為、計算については、各会社を通じた法人税の合算額によって判断すべきであるとし、低価譲渡による売上計上洩れが認められるとしても、その場合、 X社の売上金額が増加すると同時に同金額がA社の損金の増額となるから、それを計算すると、X社とA社の合計課税所得金額はかえって減少する。

 従ってX社の低価譲渡による売上計上洩れによって、法人税の負担を不当に減少させるものではない旨主張するが、法人税法は個々の法人を独立の課税客体としており(同法4条1項参照)、たとえ系列会社であっても法人格が別個である以上は、 別個の課税単位として取扱うべきものであるから、X社主張の如く、法人税の負担を不当に減少させるかどうかは系列会社間の行為、計算については各会社を通じた法人税の合算額によって判断すべきであるとの見解は到底採用することができず、X社の主張は失当たるを免れない

【参考資料】

裁判所HP