東京地裁平成12年11月30日判決

1.判示事項

・子会社の増資新株式について発行価額を著しく超える高額で引き受けて払込みをし株式売却損を発生せしめた場合、払込金額のうち発行価額を超える部分の金額を寄附金に該当するとして否認したことが相当とされた事例。

2.判例要旨

・法人税法132条は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合には、それを正常な行為又は計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであると解され、同条の否認の対象となる行為又は計算とは、通常の経済人の行為として不合理、不自然な行為又は計算がこれに該当する。

3.事案の概要

・X社(原告)は、本件事業年度においてコンサルティング契約により4億2,000万円の利益の発生が見込まれていた。
・X社は、不良債権化したA社(子会社)に対する貸付債権の処理のため、子会社の発行する増資新株式を額面価額より高額で引受け、第三者に低額で譲渡することにより有価証券売却損を計上して確定申告をした。
・A社は、X社の払込金をもってX社に対する債務を弁済した。
・Y税務署長(被告)は、法人税法132条を適用し、一連の行為を否認して更正処分を行った。

4.争点

・子会社株式の高価引受は、法人税法132条の「税負担を不当に減少される結果」に該当するか。

5.判旨 棄却

➀法132条の趣旨・適用要件について

 法132条は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができると規定している。

 同条は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為又は計算が行われた場合には、それを正常な行為又は計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであると解される。

 そして、このような法132条の趣旨にかんがみるならば、同条の否認の対象となる行為又は計算とは、通常の経済人の行為として不合理、不自然な行為又は計算がこれに該当するものというべきである。

②本件への当てはめ

 X社は、子会社2社に対する貸付金を無税償却する目的で、子会社の増資新株式について発行価額を著しく超える高額で引き受けて払込みをし株式売却損を発生せしめた場合、債務超過の状態にあって、将来成長が確実に望めるような特別の事情が認められない新株発行に際して、発行価額(額面金額)の29倍あるいは100倍の価額で引き受けて払込みをすることは、通常の経済人を基準とすれば、不自然、不合理な経済行為というほかなく、法人税の負担を不当に減少させることになるから、税務署長は、法人税法132条に基づいて、右行為を否認することができるというべきである。そして、払込金額のうち発行価額を超える部分の金額を寄附金に該当するとして損金算入を否認したことは相当である。

【参考資料】

訟月48巻11号2785頁