減価償却の判定単位 最高裁平成20年9月16日判決

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1.判示事項

エントランス回線利用権は法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に当たる。

 

2.判例要旨

 PHS(簡易型携帯電話)事業者が大量に保有し事業の用に供したエントランス回線利用権につき、それが、1回線に係る権利一つを1単位として取引されており、1回線に係る権利一つでもって、上記事業においてその用途に応じた本来の機能を発揮し収益の獲得に寄与することができるなど判示の事実関係の下では、上記利用権は、1回線に係る権利をもって一つの減価償却資産とみるのが相当であり、それが10万円未満の価格で取得された以上、法人税法施行令(平成16年政令第101号による改正前のもの)133条所定の少額減価償却資産に当たるとされた事例。

 

3.事案の概要

・原告(被控訴人・被上告人)は、携帯電話事業等を営む株式会社である。
・原告は訴外A社からPHS事業の営業譲渡を受け事業を開始した。
・原告はA社のPHS回線と訴外B社の電話網を、B社所有のエントランス回線を利用して接続することによって、PHS端末利用者に通話サービスを提供する事が可能となる。
・この回線の設置に当たっての負担金は1回線当たり7万2,800円で、約15万回線あった。原告は、A社からその事業の譲渡を受けることとし、A社に対し、エントランス回線利用権譲渡の対価を支払った。
・原告は、該当事業年度の法人税の確定申告に当たり、個別のエントランス回線利用権を法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産(取得価格が10万円未満であるもの)として、取得価額全額を損金に算入した。
・これに対し、課税当局(被告・控訴人・上告人)は、本件エントランス回線利用権は少額減価償却資産に当たらないとして、法人税の更正処分等を行った。

・これを不服として、原告は更正処分等の取消しを求めて出訴した。

 

4.争点

エントランス回線利用権は、少額減価償却資産(旧法人税法施行令133条)に該当するか。

 

5.判旨 上告棄却

エントランス回線利用権は、エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができる。

そして、事実関係によれば、エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からNTTの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる。

そうすると、本件権利については、エントランス回線1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみるのが相当であるから・・・、法人税法施行令133条の適用に当たっては、上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきである。

事実関係によれば、被上告人は、本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから、本件権利は、その一つ一つが同条所定の少額減価償却資産に当たるというべきである。

【参考資料】

民集62巻8号2089頁。