最高裁平成17年7月20日判決(パチンコ平和事件)

1.判示事項

・同族会社の出資者が同会社に対してした無利息貸付けに所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を適用されて所得税の増額更正を受けた場合において利息相当分を更正前の税額の計算の基礎としなかったことにつき国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められないとされた事例。

2.判例要旨

・同族会社に当たる有限会社の代表者で出資持分の大半を有する社員が、同会社に対して3,455億円を超える金員を無利息、無期限、無担保で貸し付けたことに所得税法157条の規定を適用され、利息相当分の雑所得があるとして所得税の増額更正を受けた場合において、上記貸付けは、不合理、不自然な経済活動であって、上記社員が経営責任を果たすために実行したとは認め難いものであること・・・代表者の経営責任の観点から無利息貸付けに社会的、経済的に相当な理由があることを前提とするものであることなど判示の事情の下においては、前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められない。

3.事案の概要

・平成元年3月、X(原告・控訴人・被上告人)は、銀行4行から約3,455億円を年利3.375%で借り入れた。
・Xは、大半の出資持分を有する訴外有限会社D(同族会社)に無利息で約3,455億円を、返済期限及び利息を定めず,担保を徴することもないまま貸し付けた。
・Y所轄税務署長(被告・被控訴人・上告人)は所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を適用し、利息相当分の雑所得があるとして平成元年分から同3年分までの所得税の増額更正及びこれらに係る過少申告加算税賦課決定をおこなった。

4.争点

個人の同族会社に対する無利息貸付は、所得税法157条にいう、納税額を「不当に減少」させる結果に該当するかどうか。

5.判旨 破棄自判

①所得税法157条の趣旨

 本件規定は、同族会社において、これを支配する株主又は社員の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、株主又は社員の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主又は社員に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである

 このような規定の趣旨、内容からすれば、株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに本件規定の適用があるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。

②「本件貸付」と「昭和58年版・税務相談事例集の貸付(本件各解説書)」の相違ついて

 前記事実関係等によれば、本件貸付けは、3,455億円を超える多額の金員を無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであり、被上告人がその経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情も認め難いのであるから、不合理、不自然な経済的活動であるというほかはないのであって、税務に携わる者としては、本件規定の適用の有無については、上記の見地を踏まえた十分な検討をすべきであったといわなければならない。

 他方、本件各解説書は、その体裁等からすれば、税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面がある。しかしながら、その内容は、代表者個人から会社に対する運転資金の無利息貸付け一般について別段の定めのあるものを除きという留保を付した上で、又は業績悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという設例について、いずれも、代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨を解説するものであって、代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的、経済的に相当な理由があることを前提とする記述であるということができるから、不合理、不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである

➂結論

 そして、当時の裁判例等に照らせば、被上告人の顧問税理士等の税務担当者においても、本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったということができる。 そうすると、前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があったとは認めることができない。

【参考資料】

集民214号1071頁。