給与所得か一時所得か 最高裁平成17年1月25日判決(ストックオプション課税事件)

1.判示事項

・米国法人の子社会である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例。

2.判例要旨

・ストックオプションの権利行使益は、親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであることなど判示の事情の下においては、同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は、所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。

3.事案の概要

・X(原告・被控訴人・上告人)は、訴外米国法人A社が100%株式保有している、訴外日本法人B社の代表取締役であった。
・A社は、一定の執行役員等に、A社のストックオプション(株式を予め定められた権利行使価格で取得する事ができる権利)を付与する制度を有している。
・Xは、B社在職中に、A社からストックオプションが付与された。
・Xは、A社から付与されたストックオプションを平成8年から11年にかけて行使し、合計約3億6000万円の権利行使益を取得した。
・Xはこの権利行使益を各事業年度で、一時所得として確定申告した。
・税務署長(被告・控訴人・被上告人)はこの利益は給与所得に該当するとして所得税の更正処分をした。
・Xはこれを不服として課税処分の取消を求めた。

4.争点

ストックオプションの権利行使益は、一時所得に該当するのか、それとも給与所得に該当するのか。

5.判旨 上告棄却

 事実関係によれば、本件ストックオプション制度に基づき付与されたストックオプションについては、被付与者の生存中は、その者のみがこれを行使することができ、その権利を譲渡し、又は移転することはできないものとされているというのであり、被付与者は、これを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる

 そうであるとすれば、米国法人A社は、上告人に対し、本件付与契約により本件ストックオプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件権利行使益を得させたものであるということができるから、本件権利行使益は、米国法人A社から上告人に与えられた給付に当たるものというべきである

 本件権利行使益の発生及びその金額が米国法人A社の株価の動向と権利行使時期に関する上告人の判断に左右されたものであるとしても、そのことを理由として、本件権利行使益が米国アプライド社から上告人に与えられた給付に当たることを否定することはできない。

 ところで、本件権利行使益は、上告人が代表取締役であった日本法人B社からではなく、米国法人A社から与えられたものである。しかしながら、前記事実関係によれば、米国法人A社は、日本法人B社の発行済み株式の100%を有している親会社であるというのであるから、米国法人A社は、日本法人B社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって、上告人は、米国法人b社の統括の下に日本法人B社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができる。

 そして、前記事実関係によれば、本件ストックオプション制度は、Aグループの一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けられているものであり、米国アプライド社は、上告人が上記のとおり職務を遂行しているからこそ、本件ストックオプション制度に基づき上告人との間で本件付与契約を締結して上告人に対して本件ストックオプションを付与したものであって、本件権利行使益が上告人が上記のとおり職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというぺきである。そうであるとすれば、本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。所論引用の判例は本件に適切でない。

 そうすると、本件権利行使益が給与所得に当たるとしてされた本件各更正は、適法というべきである。

【参考資料】

民集59巻1号64頁