最高裁昭和53年4月21日判決

1.判示事項

・借地権価格相当額を法人税法132条に基づき収入金として認定した事例。

2.判例要旨

・法人税法132条の規定の趣旨、目的に照らせば、原審が判示するような客観的、合理的基準に従つて同族会社の行為計算を否認すべき権限を税務署長に与えているものと解することができるのであるから、税務署長に包括的、一般的、白地的に課税処分権限を与えたものであることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。

3.事案の概要

・昭和37年11月、X社(原告・控訴人・上告人)は、訴外A(Xの代表取締役)らが共有する土地を賃借し、その地上に建物を建設し所有した。
・昭和42年6月、X社は建物をAらは土地を訴外Bに対し一括して代金20,000千円で売却した。
・X社は本件係争年度の確定申告において、本件取引によってえたものを全く計上せず、翌年度の確定申告にさいし本件建物の譲渡収入として1,214,300円を益金に計上した。
・Y税務署長(被告・被控訴人・被上告人)は、土地付近一帯は借地権の取得または譲渡の対価として権利金を授受する取引慣行が行なわれている地域であるとし、借地権に一定の経済的価値を認め、X社が建物とともに借地権(4,225,800円)をも対価をえて譲渡したものと認定し、法人税法132条を適用して更正処分を行った。

4.争点

・借地権相当を益金として計上していなかった場合、法人税法132条により更正することができるかどうか。

5.判旨

➀法人税法132条の判断基準

 法人税法132条(同族会社の行為又は計算の否認)は「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき」同族会社等の行為計算を否認しうる権限を税務署長に付与している。

  行為計算否認の規定が、納税者の選択した行為計算が実在し私法上有効なものであっても、いわゆる租税負担公平の原則の見地からこれを否定し、通常あるべき姿を想定し、その想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは、専ら経済的・実質的見地においてその行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定すべきものと解される。

②本件への当てはめ

 X社は、確定申告に際して建物譲渡収入を益金に計上したのみであり、その余はX社の代表Aらが収受した。代表Aらが収受した代金の中にはX社が取得すべき借地権価格相当額が含まれているのであるから、X社は代表Aらに借地権相当の経済的利益を与えたことになる。

 そしてX社は、法人税法132条にいう内国法人である同族会社であるから、YがX社のなした行為・計算をそのまま容認すると、X社の法人税の負担を不当に減少させることになるとして、X社の所得金額の計算上、借地権の対価相当額を借地権譲渡収入とし、建物譲渡収入とともに益金の額に加算して、更正処分をしたことは適法であるといわなければならない。そうすると、X社の会計処理によればX社は代表者らに借地権相当の経済的利益を与えたことになるとして、X社が同族会社であることにより法人税法132条を適用した更正処分を適法であるとした原審の認定判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

【参考資料】

訟月24巻8号1694頁