TPR事件 東京高裁 令和元年12月11日判決
1.判示事項
法人が、その完全子会社を被合併法人とする適格合併をするとともに、別の完全子会社を新設し、実態としては、被合併法人の営んでいた事業をほぼ変化のないまま新設した完全子会社に引き継がせ、親会社である法人は、被合併法人の有していた未処理欠損金額のみを同社から引き継いだに等しく、また、適格合併の主たる目的は上記未処理欠損金額の引継ぎにあったものと認められるなどの事情の下では、適格合併は法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとされた事例。
2.事案の概要
・X社(原告・控訴人)は、訴外A社の発行済株式総数の3分の2を取得した。そして、X社は、A社の発行済株式を追加取得し、同社の発行済株式の全てを保有することになった。 |
・A社の取締役会が開催され、X社がA社を吸収合併する合併契約を締結することが審議され、承認された。 |
・A社は、未処理欠損金額、合計約11億7,548万円を有していた。 |
・その後、訴外B社(以下、「新TAT社」という)が設立された。 |
・X社は、A社の本件未処理欠損金額を各事業年度において、合計約11億7,548万円を損金の額にそれぞれ算入した上、申告した。 |
・Y税務署長は、本件各事業年度の法人税について、法人税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分をした。 |
2.争点
特定資本関係が合併法人の当該合併に係る事業年度開始の日の5年前の日より前に生じている場合(適格合併の要件が満たされている場合)、132条の2を適用することができるか否か。
3.判旨 棄却
➀法人税法132条の2の意義
組織再編成に係る租税回避について、これを包括的に防止するための一般的否認規定が設けられているのは、組織再編成の形態や方法が複雑、多様であり、立法の際に、組織再編成を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定した上で、個別的な否認規定を網羅的に設けることは、事柄の性質上困難であることによるものと解される。
そうすると、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われたものと認められる場合には、132条の2が適用されることを予定しているものと解される。
②法人税法132条の2の適用範囲
本件合併が不当性要件を満たすか否かについて判断するに当たっては、不自然さ及び事業目的の点を考慮した上で、本件合併が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、57条2項の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
➂本件への当てはめ
本件合併及びこれに伴う本件設立等の検討経過等に照らすと、本件合併の主たる目的は本件未処理欠損金額の引継ぎにあったものとみるのが相当であり、本件合併の不自然さも考慮すると、税負担の減少以外に本件合併を行うことの合理的理由となる事業目的その他の事由が存在するとは認め難いといわざるを得ない。
本件合併は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、57条2項の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものというべきである。
そうすると、本件合併は、組織再編税制に係る上記規定を租税回避の手段として濫用することによって法人税の負担を減少させるものとして、132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるということができる。
【参考資料】
訟月66巻5号593頁