ヤフー事件 最高裁平成28年2月29日判決

1.判示事項

・X社がA社の発行済株式全部を買収してA社を完全子会社とし、その後A社を吸収合併した場合において、X社の代表取締役社長が買収前にA社の取締役副社長に就任した行為が、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとされた事例。

2.判例要旨

・法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいい、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

3.事案の概要

・X社(原告・控訴人・上告人)は、情報提供サービス業等を目的とする会社である。
・訴外A社は、訴外B社の発行済株式の全部を取得し、100%子会社とした。B社は、平成20年3月時点で未処理欠損金額、約666億円となっていた。
・平成20年12月、I(個人)は、B社の取締役副社長に選任された(Iは、X社の代表取締役社長である)。
・平成21年2月、A社はX社にB社の発行済株式全部を450億円で譲渡した。
・平成21年2月、X社は、取締役会において、B社を吸収合併した。
・X社は、法人税法57条3項のみなし共同事業要件に該当するとして、欠損金額をX社の欠損金額とみなして、損金の額に算入した。
・Y税務署長(被告・被控訴人・被上告人)は、特定役員引継要件を形式的に満たし、欠損金額を原告の欠損金額とみなすこと等を目的とした異常ないし変則的なものであり、これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして、132条の2に基づき、更正処分等を行った。

4.争点

・X社の代表取締役社長が、買収前にB社の取締役副社長に就任したことで、みなし共同事業要件を満たし、未処理欠損金を損金に算入したことが、法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果」に該当するか。

5.判旨 上告棄却

➀法人税法132条の2の判断基準

 132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編成税制にかかる各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制にかかる各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

②本件への当てはめ

 本件副社長就任は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを定める法人税法57条2項、みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項及び特定役員引継要件を定める法人税法施行令112条7項5号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるというべきである。

そうすると、本件副社長就任は、組織再編税制に係る上記各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解するのが相当である。

【参考資料】

民集70巻2号242頁