私法上の法形式の選択 東京高裁平成11年6月21日判決(岩瀬事件)

1.判示事項

・同一当事者間で各別の売買契約によりされた相互の土地の譲渡と取得等を交換に当たるとしてした譲渡所得に係る課税処分が違法とされた事例。

2.判例要旨

・同一当事者間で相互に土地の譲渡、取得等をするに当たり、格別の売買契約書を作成して売買という法形式を選択した場合において、その法形式が仮装のものであるとすることが困難である等判示の事実関係の下では、これを交換に当たるとしてした譲渡所得に係る課税処分は違法である。

3.事案の概要

・X(原告・控訴人兼被控訴人)は、訴外A社(地上げ屋)に土地を約7億円で売却した(売買契約①)。
・Xは、A社から土地を約4億円で購入し、差額の約3億円を受け取った(売買契約②)。
・Xは、「上記①と②」を別の売買契約として契約を交わし、譲渡価額を約7億円として確定申告した。
・Y税務署長(被告・被控訴人兼控訴人)は、「上記①と②」を交換とみなし、Xが購入した土地の時価と交換差金の約3億円の合計約10億円を譲渡価額として、更正処分を行った。

4.争点

・本件取引は、交換(補足金交付契約)か、それとも売買契約か。

5.判旨

➀私法上の法形式の選択について

 X側と相手方において、真実の合意としては補足金付交換契約の法形式を採用することとするのでなければ何らかの不都合が生じるという事情は認められず、むしろ税負担軽減を図るという観点からして、売買契約とその各売買代金の相殺という法形式を採用することの方が望ましいと考えられたことが認められるのであるから、真実の合意としては、補足金付交換契約の法形式を採用した上で、契約書の書面上はこの真の法形式を隠ぺいするという行動をとるべき動機に乏しく、したがって、本件取引において採用された売買契約の法形式が仮装のものであるとすることは困難なものというべきである。

②租税法律主義

 また、資産が著しく低い対価によって法人に譲渡された場合については、資産の増加益に対する課税が繰り延べられることを防止するため、時価による譲渡があったものとみなして課税が行われることとなっている(所得税法59条1項2号)が、それ以外の場合については、資産の増加益に対する課税が繰り延べられることもやむを得ないものとする法制が採られているところである。

 このような法制からすると、本件取引において、結果として本件譲渡資産が通常の場合に比較すると低い価額で他に譲渡されたこととなり、これによってXらの譲渡所得に対する税負担が軽減されることとなったとしても、その譲渡が著しく低い対価による譲渡に当たらない以上、その軽減された部分に対応する課税負担は後に繰り延べられることを法律自体が予定しているものというべきである

【参考資料】

高民52巻26頁