逆さ合併 広島地裁平成2年1月25日判決

1.判示事項

・法形式としては赤字法人が黒字法人を吸収合併したものであるにもかかわらず、その経済的実質においては黒字法人が赤字法人を吸収合併したものと評価し得る、いわゆる逆さ合併が同族会社間において行われた場合につき、法人税法132条を適用して、同法57条による繰越欠損金の損金算入が認められないとされた事例。

2.判例要旨

・法人が合併した場合、被合併法人の有する欠損金額を、法人税法57条により、合併法人の所得の金額の計算上損金に算入することは許されない。

3.事案の概要

・X社(原告)及び訴外A社(消滅会社)は、一族(4名)が過半数の株式を保有する同族会社である。
・X社は設立以来、業績不振により累積赤字が増加し、合併直前約1億300万円の累積赤字が生じていた。
・A社は設立以来、電子業界の好況により、業績は極めて良好であり、毎年多額の利益を計上していた。
・昭和58年2月、X社が合併法人、A社を被合併法人として合併を行い、申告においてX社の未処理欠損金を損金に算入した。
・Y税務署長(被告)は法人税法132条を適用して、未処理欠損金を損金に算入しない更正処分を行った。

4.争点

・赤字法人が黒字法人を吸収合併し、未処理欠損金を損金に算入することは、法人税法132条の税負担を「不当に減少」させる結果に該当するか。

5.判旨 棄却

➀法57条の目的・趣旨

 法57条の規定は、法人税を課す場合において現行法が各事業年度毎に独立して課税することを原則としているところから、税負担が過重になる場合が生ずるので、その緩和を図るため、一定の条件を付した上、欠損金の繰越控除を認めるために特別に設けられたものであり、租税立法政策上の特例規定である

 同条の目的・趣旨に照らすと、同条により繰越欠損金額を損金の額に算入することのできる法人は、その前提として当該法人の事業経営上生じた繰越欠損金額を有する法人に限られる。したがって、別法人の事業経営上生じた欠損金額については、同条の適用はなく、その結果、法人が他の法人を吸収合併した場合において、税務上、被合併法人の有する繰越欠損金額を合併法人の当該各事業年度の所得の金額の計算上損金に算入することは認められていないのである。この理は、繰越欠損金を有する赤字法人を合併法人とする合併方式(いわゆる逆さ合併)を採用した場合にも妥当するのである。

 例えば、合併法人たる赤字法人が合併の前後を通じて企業の実態を欠き形骸化しているため、経済的実質においては被合併法人たる黒字法人が合併法人であり、赤字法人は、消滅する被合併法人であると見られる関係にあるときは、法形式上合併法人たる赤字法人につき繰越欠損金を損金算入するように見えても、その実質は、被合併法人たる黒字法人につき合併法人の繰越欠損金の損金算入をするものであるから、法57条を適用することは許されない。

②法132条の適用について

 法132条は、同族会社等が通常の経済人の選ぶ行為形態として不合理であると認められる行為計算すなわち殊更に不自然、不合理な行為計算を採ることにより、不当に法人税を回避、軽減する結果となる場合に、かかる行為計算を否認して、これを合理的な行為計算に引き直して課税するものである

 かかる租税回避行為が租税の特質の一つである公平平等主義に反する行為であることは明らかであって、税法上特別の規定を待たずに否認できるものである。法132条は、かかる租税回避行為を否認し得ることを例示的に確認した規定である。このように、同条は、同族会社に係る租税回避行為否認の法理を具体的に成文化した規定として租税負担の公平の実現を図るものであるから、例えば、法57条のごとき税法の個々の規定が定める要件を形式的には充足するようにみえても、これを適用するならば、実質上当該規定を設けた趣旨にもとると見られる結果を生じる場合には、当然法132条を適用して、当該行為又は計算を否認できるものと解すべきである。

【参考資料】

行裁例集41巻1号42頁