最高裁昭和59年10月25日判決

1.判示事項

・同族会社であるX社が関係会社に販売した販売価額は、従前の販売価額、他の取引先に対する販売価額、製造原価、定価表の定価、県の工事設計単価及び他社製品の市況価格に比し著しく低廉であり、その行為又は計算を容認した場合には法人税法132条1項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」とされた。

2.事案の概要

・X社(原告・被控訴人・上告人)は、法人税法上の同族会社である。
・X社は、訴外、同族会社のA社に、昭和40年9月1日~41年8月31日の期間中、プレストレストコンクリート矢板を販売した。
・Y税務署長(被告・控訴人・被上告人)は、増額更正処分を行った。
 更正の理由
➀X社が、A社に対する商品の売上げの一部について、売上計上漏れ(売上計上時期のズレ)を認定した。
②①の売上計上漏れを含めたA社に対する売上中に、製造原価以下の金額で販売されたものがあるとして、法人税法132条を適用し、差額を本件事業年度の売上計上漏れと認定した。

3.争点

法人税法132条の同族会社等の行為又は計算の否認の適用の可否

5.判旨 上告棄却

・法人税法132条の意義

 法人税法132条の規定は法人の選択した行為、計算が実在し私法上有効であっても、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを否認し、通常あるべき行為、計算を想定し、これに従い税法を適用しようとするものであることにかんがみれば、法人税法132条の「法人税の負担を不当に減少させる結果になる」と認められるか否かは、専ら経済的実質的見地において、法人の行為、計算が経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきものである。

 これを法人の製品販売の行為、計算についてみれば、その販売価額が通常の販売価額(時価)に比し異常に低価であって、経済的取引としては不合理、不自然と認められるかどうかがその判断基準とされるべきである。

・本件へのあてはめ

 本件商品の販売価額は、通常の販売価額の56~57%であって、しかも製造原価をも下回る異常な低価であることは前叙のとおりである。してみれば他に特段の事情の認められない本件においては、異常低価販売は経済的取引としてまことに不合理、不自然なものであるという外ない

 法人税の負担を不当に減少させるかどうかは、X社とA社のような系列会社間の行為、計算については、各会社を通じた法人税の合算額によって判断すべきであるとし、前記低価譲渡による売上計上洩れが認められるとしても、その場合、 X社の売上金額が増加すると同時に同金額がA社の(損金の)増額となるから、それを計算すると、X社とA社の合計課税所得金額はかえって減少し、法人税の負担は1万2,160円が減少する。

 従ってX社の低価譲渡による売上計上洩れによって、法人税の負担を不当に減少させるものではない旨主張するが、法人税法は個々の法人を独立の課税客体としており、たとえ系列会社であっても法人格が別個である以上は、 別個の課税単位として取扱うべきものであるから、X社主張の如く、法人税の負担を不当に減少させるかどうかは系列会社間の行為、計算については各会社を通じた法人税の合算額によって判断すべきであるとの見解は到底採用することができず、従って右見解を前提とするXの主張は失当たるを免れない。

【参考資料】

行集31巻9号1982頁(高裁)